iOSアプリ開発といえば、長年UIKitが「当たり前」の存在でした。それこそiPhoneが登場した2007年以降、UIKitは十数年にわたり、あらゆるUI構築の土台となってきたわけです。しかし、2019年のWWDCでAppleが発表したSwiftUIは、その「当たり前」を根底から揺るがす新しいフレームワークでした。
私自身、初めてSwiftUIのコードを見たとき、「え、これだけで表示できちゃうの?」と妙な戸惑いを覚えたんですよね。UIKitだと、UILabelを作って、文字列をセットして、Auto Layoutの制約を書いて…と、どうしても手順が多くなりがちだった。でもSwiftUIは Text(“Hello”) って書くだけでテキストが表示されちゃう。そして見た目を変えたければ、.font(.title) や .padding() を後ろにペチペチ足せばOK。この「宣言的」な書き方は、もはや従来のUI開発とは別次元の感覚でした。
UIKitとの思想的な違い
では、SwiftUIがUIKitとどう違うのかをもう少し言語化してみましょう。大きな違いは「UIの記述スタイル」と「状態管理」の考え方にあります。
命令的 vs 宣言的
UIKitは「命令的(Imperative)」なアプローチを採用しています。つまり「このラベルをここに配置し、フォントをこれに変え、その後にこれこれのイベントで更新せよ」と、開発者が逐一指示を出すスタイル。これは慣れれば分かりやすいのですが、画面が複雑になると、更新処理があちこちに散らばって「どこで何を変えてるんだっけ?」と混乱を招きやすかった。
一方、SwiftUIは「宣言的(Declarative)」なアプローチです。これは「この画面は、こういう状態ならテキストはこう見える、ボタンはこう配置される」といった「最終的な見え方」を宣言するだけで、状態が変われば勝手にUIが追従します。UIを描画するための手続きはフレームワーク側がやってくれるので、開発者は「UIとデータの関係」を定義すればいい。慣れると「これだけで動くのかよ…」と笑ってしまうほど、UI更新周りのコードが激減します。
状態管理のシンプル化
UIKitで複雑なUIを組んでいると、どうしても「このボタンを押したら、あのViewControllerのあのプロパティを更新して…」みたいなドミノ倒し的なデータ管理が増えていきます。デリゲートや通知、KVO、さらにはスレッド間同期など、状態管理が煩雑化しやすい。
しかしSwiftUIは@Stateや@Binding、@ObservedObject、@EnvironmentObjectなどの機能を用いて、データが変わったらUIが自動的に最新状態を反映してくれる仕組みを標準で搭載しています。これにより、「この値が変わったから、あのメソッドでUIを更新しなくちゃ!」といった明示的な手続きが激減する。言い換えれば、「データの在り方」を考える時間は減り、「本当にやりたい表現」をコードに集中できるようになります。
プレビューによる即時確認
UIKitのときは、UIを作ってはビルドしてシミュレータか実機で確認…という往復が当たり前。ほんのちょっとしたフォントサイズの調整も「ビルド→起動→確認」の手間がかかっていました。
SwiftUIはXcodeのPreview機能と密接に連携していて、コードを書くだけで右側に即プレビューが表示されます。これ、地味に開発効率を爆上げするポイントなんですよね。ちょっとしたUI微調整が超スムーズになるので、作業の心理的な敷居が下がる。結果として、より細かいところまで詰めていく余裕が生まれるわけです。
なぜAppleはSwiftUIを作ったのか
Appleがなぜこの「宣言的UI」へと舵を切ったのか、公式なアナウンスでは「最新のUI開発手法をAppleプラットフォーム全体で共有するため」といったニュアンスで語られていますが、個人的には以下のような動機も想像しています。
- マルチプラットフォーム対応: iOSだけでなく、macOSやwatchOS、tvOSといった他プラットフォームでUIを統一的に記述できる仕組みが欲しかった。SwiftUIなら同じ宣言的モデルを様々なデバイスに適用しやすい。
- 開発効率の向上: デザイナーや開発者がより短いイタレーションでUIを作り込める環境を提供することで、アプリ品質や開発速度を底上げしたかった。
- Swift言語とのシナジー: SwiftUIはSwiftと相性が抜群。structベースで軽量なUIコンポーネントを定義し、Combineなどのリアクティブ技術との連携も視野に入れている。Swiftならではの型安全性や静的解析との親和性が高まる。
UIKitとSwiftUIは共存できる
「UIKit経験が無駄になっちゃうんじゃない?」と心配する人もいるかもしれません。でも、安心してください。SwiftUIとUIKitは共存可能です。UIHostingControllerを使えば既存のUIKitビュー階層にSwiftUIビューを組み込むこともできるし、その逆にSwiftUIからUIViewRepresentableやUIViewControllerRepresentableを介してUIKitのコンポーネントを利用することも可能。
つまり、いきなり全部をSwiftUIに切り替える必要はないわけです。既存プロジェクトに部分的にSwiftUIを導入してみて、その便利さや開発効率の高さを体感してから徐々に移行するといった段階的なアプローチもあり。私が過去に関わったプロジェクトでも、まずは一部の画面だけSwiftUI化してみて、そこから「これやっぱ全画面SwiftUIでやったほうが楽じゃね?」と判断した流れもありました。
結局、SwiftUIは「新しい定番」になり得るか
SwiftUIはまだ若いフレームワークで、UIKitほど資料やサンプルが豊富でない面もあります。特にリリース初期はバグや制限も多く、「まだUIKitじゃないと難しいな」と感じる場面があるのも事実でした。
しかしAppleは毎年のWWDCでSwiftUIを大きく進化させており、対応OSバージョンも徐々に引き上がるにつれ「SwiftUIがデフォルトでしょ」という流れが強まっています。
私自身、数年後には「新しくiOSアプリ作るならSwiftUI一択でしょ」という世界が普通になっていくんじゃないかと感じています。それぐらい、UIKitとは違う新鮮な書き方と思想で、新たな「標準」を作り上げようとしているのがSwiftUIなんです。
まとめ
- SwiftUIは「宣言的」UIフレームワーク:書いた状態定義に応じて自動的にUIが更新される
- UIKitの命令的スタイルに比べて、状態管理やUI更新周りがシンプルになる
- Previewを使った即時反映で、開発効率が格段に向上
- UIKitと共存可能なので、段階的な移行も容易
- AppleはSwiftUIを積極的に拡張中で、将来の「標準UI開発手法」になりそうな期待大
ここまでの話で、SwiftUIがなぜ注目されているのか、そしてUIKitとはどのように違うのかをイメージできたのではないでしょうか。次の記事以降では、実際のプロジェクト作成や基本的なコンポーネント操作、レイアウト手法など、より実務的なテクニックに踏み込んでいく予定です。「百聞は一見にしかず」、ぜひ手を動かしながら、この新しいUI開発パラダイムに慣れていきましょう。